「寝れない」を焦らなければ「寝れる」_ODの睡眠障害改善

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起立性調節障害(OD)を抱える方にとって、睡眠の質の低下は日常生活をさらに苦しめる大きな問題です。

そんな中、睡眠障害に対して注目されているのが「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」という心理療法です。2020年に発表されたSalariらの系統的レビューは、このACTが不眠や睡眠の質の改善に効果的であることを報告しています。

今回は、この研究成果をもとに、ACTとはどんな療法なのか、どのように不眠に効くのか、そしてOD患児の我々にとってどう参考になるのかを考えてみます。

ACTとは?

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、いわゆる「第3世代の認知行動療法」として知られています。特徴は、次の2つのアプローチに集約されます。

アクセプタンス(受容):嫌な感情や思考を無理に変えようとせず、そのまま受け入れる。

コミットメント(価値に沿った行動):自分が大切にしたい価値を明確にし、それに向かって行動を選択する。

従来の認知行動療法では「考え方を変える」ことに重きが置かれていましたが、ACTでは「どんな感情があっても、それを抱えながら生きていく」ことに焦点を当てています。

この考え方は、「眠らなきゃ」「また眠れなかったらどうしよう」といった不眠の悪循環に陥った思考パターンを解くのに効果的なのです。

ACTは不眠にどう効くのか?

Salariらのレビューでは、ACTが不眠や睡眠の質に与える影響を調査した複数の研究(RCTを含む)を対象に分析が行われました。参加者は一般成人のほか、慢性痛、がん、うつ病などの併存疾患を持つ人々も含まれていました。

主な結果は以下のとおりです。

睡眠の質の向上:Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)でのスコアが有意に改善

不眠症状の軽減:入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などの頻度が低下

併発する精神的苦痛の軽減:不安や抑うつといった症状もあわせて軽減する傾向が見られた

重要なのは、「眠れないという状態を無理に変えようとしない」ことがかえって心身の緊張をほぐし、睡眠に良い影響をもたらすという点です。これはODなどストレスに敏感な疾患を持つ方にとっても、大きなヒントになると思います。

ODとACTの親和性

起立性調節障害(OD)は、自律神経の調節障害であると同時に、ストレスや心理的要因によって症状が増悪することがあります。

実際、多くのOD患者は「朝起きなければ」「学校に行かなければ」「周りに迷惑をかけてはいけない」といった強い思考に縛られ、結果的に体の症状を悪化させてしまう例があります。

ACTは、こうした「〜しなければならない」という思考を解放し、「今、自分が何を大切にしたいか」を見つめ直す療法です。ODに対して、薬や運動療法と並行して取り入れる心理的アプローチとして非常に相性がよいと考えられます。

今日からできるACT的セルフケア

ACTは専門家のもとで受けるのがベストですが、日常で取り入れられる要素もたくさんあります。ここでは簡単にできるセルフワークを3つご紹介します。

① マインドフル・ブリージング(呼吸に注意を向ける)

• 静かに座り、鼻から息を吸い、ゆっくり吐きながら「今、息をしている」とだけ意識します。

• 「眠れない」「考えが止まらない」といった思考が浮かんでも、「そう感じているんだな」とそのまま受け流します。

② 「価値カード」ワーク

• 「自分にとって大切なこと」を書き出してみましょう。たとえば「家族」「健康」「学び」「自由」など。

• その価値に向かって、今日できる小さく具体的な行動を考えてみてください。

③ 思考に名前をつけてみる(ラベリング)

• 「また眠れないかも」という思考が浮かんだら、「あ、これは“心配くん”だ」と名づけてみましょう。

• そうすることで思考に支配され、囚われてしまわずに距離を取ることができるようになります。

おわりに

不眠や睡眠の質の問題は、起立性調節障害をはじめとする多くの身体疾患に共通する悩みです。ACTのようなアプローチは、「がんばらなきゃ」ではなく「ありのままを受け入れる」力を養い、心身の回復を支えてくれます。

もし今、不安や不眠に悩んでいるなら、「変えること」よりも「許すこと」に目を向けたほうがかえって効果的かもしれません。

ではまた!

Salari N, Khazaie H, Hosseinian-Far A, Khaledi-Paveh B, Ghasemi H, Mohammadi M, Shohaimi S. The effect of acceptance and commitment therapy on insomnia and sleep quality: A systematic review. BMC Neurology. 2020 Aug 13;20(1):300. doi:10.1186/s12883-020-01883-1. PMID: 32791960; PMCID: PMC7425538.

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